2025.06.14(更新)
比較・推奨のあり方
(一財)保険代理店サービス品質管理機構 監事
認定経営革新等支援機関
のぞみ総合法律事務所
パートナー弁護士 吉田 桂公
MBA(経営修士)
CIA(公認内部監査人)CFE(公認不正検査士)
1 はじめに
「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書(2024年12月25日)では、比較・推奨について、以下のように記載され、いわゆる「ハ方式」(「ハ方式」については、後述します。)が廃止される見込みとなっています。
適切な比較推奨販売を確保する観点から、乗合代理店が比較推奨販売を行う場合には、乗合代理店における保険募集の実務や募集形態等も踏まえつつ、 ・ 顧客の意向に沿って保険商品を絞り込む ・ 同保険商品の絞り込みに当たっては、顧客が重視する項目を丁寧かつ明確に把握した上で、意向に沿って保険商品を選別し、推奨する ことを求めていくべきであり、その際の留意事項等については、今後、監督指針等において可能な限り明確化が図られる必要がある。 |
本稿では、現状の比較・推奨の規制について振り返った上で、今後の改正の動向等について、解説します。
2 比較・推奨に関する現状の規制(振り返り)
(1)保険業法の規制
現状の比較・推奨の方法としては、一般に、以下のA~Cの方法があります。
A 顧客の意向に沿って商品を選別し、商品を推奨するパターン ※ (顧客の意向に対応した)商品特性や保険料水準等の客観的な基準や理由等により、保険商品を絞り込んで、顧客に提示する方法(保険業法施行規則227条の2第3項4号ロ、保険会社向けの総合的な監督指針Ⅱ-4-2-9(5)①②) B 自店独自の推奨理由・基準に沿って商品を選別し、商品を推奨するパターン ※ 商品特性や保険料水準等の客観的な基準や理由等に基づくことなく、(特定の保険会社との資本関係やその他の事務手続・経営方針上の理由等により)保険商品を絞り込んで、顧客に提示する方法(保険業法施行規則227条の2第3項4号ハ、保険会社向けの総合的な監督指針Ⅱ-4-2-9(5)③) C 上記②の方法で、自店独自の推奨理由・基準に沿って商品(複数の商品)を選別した後、上記①の方法で、顧客の意向に沿って商品を選別し、商品を推奨するパターン |
一般に、上記Aを「ロ方式」(保険業法施行規則227条の2第3項4号ロの「ロ」が由来です)、上記Bを「ハ方式」(保険業法施行規則227条の2第3項4号ハの「ハ」が由来です)と呼び、上記Cを「ハ→ロ方式」や(ハ方式とロ方式の)「ハイブリッド方式」と呼びます。
(2)金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律(金サ法)の規制
金サ法2条1項は、「金融サービスの提供等に係る業務を行う者は・・・顧客等の最善の利益を勘案しつつ、顧客等に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない」として、「最善利益勘案義務」について規定しています。
保険代理店(法人)及び保険募集人(個人)は、「金融サービスの提供等に係る業務を行う者」に該当し、顧客の最善の利益を勘案した適切な比較推奨販売を行わなければなりません。いかに顧客にとって最適な商品を提案できるかが重要となります。
3 比較・推奨に関する現状の規制の課題
「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書(以下「報告書」といいます。)では、比較・推奨について、以下のように課題が示されました。
① 現行の保険業法令においては、乗合代理店が保険会社からの便宜供与等の見返りとして、顧客に 対して特定の保険会社の商品を優先的に推奨していたとしても、顧客に対してその理由を適切に説明していたとするならば、直ちに法令違反とはならない ② しかしながら、顧客の意向にかかわらず、便宜供与等の乗合代理店の利益のみを優先して特定の保険会社の商品を推奨することは、その理由を適切に説明していたとしても、顧客の適切な商品選択を阻害し得るものであり、最善の利益を勘案して誠実かつ公正に業務を遂行する義務を果たす観点からは適切な対応とは言えない ③ 今般の保険金不正請求事案における保険代理店のように、本来は便宜供与を理由としているにもかかわらず、例えば経営方針であるなどとして保険代理店独自の理由であるかのように装った場合、それが露呈しづらい |
上記①について、確かに、現行の保険業法では、乗合代理店が保険会社からの便宜供与等の見返りとして、顧客に対して特定の保険会社の商品を優先的に推奨していたとしても、その理由を顧客に正直に説明すれば、つまり、(実際は、そのような説明はしないと思いますが)「弊社は、多くの便宜供与をしてくれる保険会社の商品をお客様に推奨します」と顧客に説明すれば、直ちに保険業法に違反するものではありません。
しかし、上記②のとおり、そのような商品選択の方法は、顧客の最善の利益を何ら勘案しておらず、最善利益勘案義務の観点からは問題といえます。
加えて、上記③のように、本来は便宜供与を推奨理由としているにもかかわらず、例えば、経営方針であるなどとして保険代理店独自の理由であるかのように装った場合、そのような虚偽説明をしているとの実態が見えにくくなります。
現状の比較・推奨規制には、このような課題があります。
4 法改正の方向性
上記のような課題を解消するために、報告書では、以下の方針が示されました。
適切な比較推奨販売を確保する観点から、乗合代理店が比較推奨販売を行う場合には、乗合代理店における保険募集の実務や募集形態等も踏まえつつ、 ・ 顧客の意向に沿って保険商品を絞り込む ・ 同保険商品の絞り込みに当たっては、顧客が重視する項目を丁寧かつ明確に把握した上で、意向に沿って保険商品を選別し、推奨する ことを求めていくべきであり、その際の留意事項等については、今後、監督指針等において可能な限り明確化が図られる必要がある。 |
すなわち、ハ方式は廃止する方向での検討がなされることになりました。
今後、この方向性を踏まえた保険業法施行規則及び保険会社向けの総合的な監督指針の改正が予定されています。